2025.12.15
ウェブアクセシビリティとは?義務化の内容とJIS基準、現場で使える対応策を徹底解説【2025年改訂版】
「ウェブアクセシビリティ」という言葉を聞いて、どこか他人事のように感じていませんか?2024年の義務化以降、これは企業の必須教養となりました。言葉の定義から、JIS X 8341-3の適合レベル、具体的な改修ポイント、そして運用を楽にする方法まで、担当者が知っておくべき「すべて」を、専門用語を噛み砕いて解説します。
「ウェブアクセシビリティへの対応は、余裕のある大企業がやる社会貢献だよね?」もしそう思われているなら、その認識は少し古いかもしれません。
結論から言えば、ウェブアクセシビリティは現在、「コンプライアンス(法令遵守)」と「マーケティング(機会損失の防止)」の両面において、企業の生命線を握る重要なテーマになっています。
2024年4月に施行された「改正障害者差別解消法」により、民間企業であっても障害のある方への合理的配慮が義務化されました。また、Googleなどの検索エンジンも「誰もが使いやすいサイト」を評価するアルゴリズムへと進化しています。もはやウェブアクセシビリティへの配慮は「あれば良いプラスアルファ」ではなく、「Webサイトとして当たり前の品質」なのです。本記事では、その理由と具体的な対応策を、現場目線でわかりやすく紐解いていきます。
誤解されがちな定義と「利用シーン」の広さ
ウェブアクセシビリティ(Web Accessibility)という言葉を聞くと、「視覚障害者のために、音声を読み上げる機能をつけること」だけをイメージされる方が多いかもしれません。しかし、それは全体の一部に過ぎません。
正確には、「心身の機能や利用環境に関わらず、誰もがWeb等の情報や機能を支障なく利用できる状態」を指します。
想像してみてください。
- 高齢の方:老眼が進み、薄いグレーの文字が読みにくい状況。
- 一時的な怪我:利き手を骨折し、マウスが握れずキーボードだけで操作しなければならない状況。
- 子育て中のパパ・ママ:電車の中で赤ちゃんを抱っこしており、音を出せずに動画の内容を知りたい状況。
- 屋外の営業マン:強い日差しの下でスマホの画面が見づらい状況。
これらすべてが、ウェブアクセシビリティが解決すべき対象です。「特定の人への福祉」ではなく、「あらゆるユーザーの使いにくさを解消すること」だと捉えると、その重要性が腹落ちするはずです。
ユーザビリティやバリアフリーとの決定的な違い
よく混同される言葉ですが、関係性を整理すると以下のようになります。
- アクセシビリティ(Access): 「使えること」。土台となるスタートライン。
- ユーザビリティ(Usability): 「使いやすいこと」。効率や満足度。
例えば、どんなにデザインが美しく、ボタンが押しやすい(ユーザビリティが高い)サイトでも、そのボタンが画像で作られていて代替テキストがなく、目の見えない人が「ボタンがあること」に気づけなければ、アクセシビリティはゼロです。アクセシビリティという土台があって初めて、ユーザビリティやデザインが成り立つのです。
民間企業にも課された「合理的配慮」の義務とは
2024年4月1日は、日本のWeb業界にとって大きな転換点でした。それまで行政機関等に限定されていた「合理的配慮の提供」の法的義務が、ボランティア団体や個人事業主を含むすべての民間事業者に適用されたのです。
ここで重要になるのが2つの概念です。
- ✅環境の整備(事前的改善措置):
- Webサイト全体を誰でも使えるように改修すること。これは「努力義務」とされていますが、次項の「合理的配慮」をスムーズに行うための準備として必須です。
- ✅合理的配慮の提供(法的義務):
- 個別の障害者から「入力フォームが使いにくいので、メールで申し込ませてほしい」といった具体的な意思表明があった際、過重な負担がない範囲で対応すること。これを拒否することは、障害者差別にあたる可能性があります。
放置することで企業が背負う「見えないリスク」
「努力義務なら、まだ様子見でいいか」と考えるのは危険です。 アクセシビリティの問題を放置することは、個別の問い合わせ対応コストを増大させるだけでなく、「多様性を尊重しない企業」というレッテルを貼られるレピュテーションリスク(評判の低下)に直結します。 逆に言えば、いち早く対応することで、SDGsやESG経営に真摯に取り組む企業として、ブランド価値を高めるチャンスでもあるのです。
本国内のWebサイトが準拠すべき品質基準として、日本産業規格「JIS X 8341-3:2016」があります。
レベルA・AA・AAA、結局どれを目指せばいい?
この規格には3つの適合レベルがありますが、企業担当者が目指すべきは「レベルAA」です。
- ✅レベルA(必須):
- ここを満たさないと、一部のユーザーが全く情報を得られません。「画像にalt属性を入れる」「キーボードで操作できる」など、最低限のラインです。まずはここをクリアしましょう。
- ✅レベルAA(推奨):
- 多くの公的機関や企業が目標としている標準ラインです。「文字と背景のコントラスト比を4.5:1以上にする」「一貫したナビゲーションを提供する」などが含まれます。デジタル庁もこのレベルを推奨しています。
- ✅レベルAAA(高度):
- 非常に高い基準です。「手話通訳をつける」「制限時間を設けない」などがあり、全てのページで満たすのは現実的ではありません。
世界基準(WCAG)と日本基準(JIS)の関係性
「JIS規格」は日本独自のものではなく、W3Cが定める世界標準「WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)」と内容的に協調しています(一致規格)。 つまり、JISに対応することは、そのままグローバルスタンダードに対応することを意味します。※ただし、現在は世界基準の方が更新が進んでおり、若干のズレが生じています。このあたりの最新事情は、別記事で詳しく解説しています。
【2025年最新】JIS規格改正と世界基準(WCAG 2.2)の最新動向はこちら
では、具体的に明日から何をチェックすれば良いのでしょうか。代表的なポイントを挙げます。
画像・動画・配色における「伝え方」のルール
- ✅画像には「言葉」を添える:
- alt="画像" ではなく、alt="オフィスの会議室で笑顔で打ち合わせをする社員たち" のように、文脈が伝わる説明を入れましょう。逆に、意味を持たない装飾画像は alt=""(空)にします。
- ✅色だけで伝えない:
- 「必須項目は赤字の箇所です」という指示は、色覚特性のある方やモノクロ印刷時には伝わりません。「赤字の箇所(※)」のように、記号や文字情報を併用しましょう。
- ✅動画には「文字」を添える:
- 音声が聞こえない環境の人向けに、字幕(キャプション)や、内容を要約したテキストを必ず用意しましょう。
マシンに正しく読ませる「HTML構造」のルール
- ✅見出しは見出しとしてマークアップする:
- 文字を大きく太くしただけでは、スクリーンリーダーは「見出し」と認識できません。必ず h1 h2 h3 タグを使用し、順序を守りましょう。
- ✅リンク先を予測できるようにする:
- 「詳しくはこちら」というリンクがページ内に何個もあると、音声で聞いている人はどれがどのリンクかわかりません。「製品Aの詳細はこちら」のように具体的に記述します。
- ✅マウスがなくても使えるか:
- マウスを使わず、キーボードの「Tab」キーだけでリンクやボタンを移動し、「Enter」キーで実行できるかテストしてみましょう。
ここまでウェブアクセシビリティの基準やチェックリストを見てきて、「これを全て手動で管理し続けるのは無理ではないか…?」と不安になった方もいるかもしれません。 その感覚は正しいです。膨大なページを持つ企業サイトにおいて、HTMLソースコードを目視でチェックし続けるのは、運用コストの観点から現実的ではありません。また、担当者のスキルによって品質にバラつきが出る「属人化」のリスクも伴います。
だからこそ、ウェブアクセシビリティ対応は「人の努力」だけでカバーするのではなく、「適切なツール」や「プロの知見」を借りて仕組み化するのが正解です。 企業の状況に合わせて、以下のようなアプローチを検討してみましょう。
解決策1:まずは自社サイトの「健康状態」を知る(診断)
「何から手をつければいいかわからない」という場合は、現在のサイトがJIS規格のどのレベルにあるのかを客観的に数値化することから始めましょう。 専門家による「ウェブアクセシビリティ診断」を受ければ、優先的に改修すべき箇所が明確になり、無駄のない改修計画が立てられます。
解決策2:日々の運用負荷を「ツール」で劇的に下げる
コンテンツを作成・公開するたびに外部業者にチェックを依頼していては、スピード感が損なわれます。そこで有効なのが、目的に応じた「デジタルツール」の活用です。
まず、制作段階でのミスを防ぐために「アクセシビリティチェックツール」が役立ちます。これを導入すれば、HTMLの知識がない担当者でも、公開前に「画像の代替テキスト漏れ」や「コントラスト比不足」などのエラーを自力で発見し、その場で修正できるようになります。
さらに、ツールの力でサイト全体を自動的に最適化するアプローチもあります。 コネクティが提供するアクセシビリティツール「UserWay(ユーザーウェイ)」は、Webサイトに導入するだけでアクセシビリティ違反を自動検知し、改善をサポートするソリューションです。 UserWayの大きな特徴は、サイト訪問者自身が自分の見やすさに合わせて表示を調整できる「アクセシビリティウィジェット」機能です。「文字を大きくしたい」「コントラストを強めたい」「読み上げに最適化したい」といったユーザー個々の障害特性やニーズに対し、即座にサイト側が適応(最適化)できるようになります。
国際規格(WCAG 2.1/2.2)にも準拠しており、手動改修だけではカバーしきれない部分をテクノロジーで補完することで、運用負荷を最小限に抑えながら高レベルなアクセシビリティを実現できます。
解決策3:組織全体で取り組むなら「コンサルティング」や「CMS」
一時的な改修だけでなく、ガイドラインの策定や社内研修、あるいはウェブアクセシビリティ対応機能を備えた「CMS(コンテンツ管理システム)」への載せ替えなど、根本的な体制構築を行うことで、持続可能な運用が可能になります。
コネクティでは、これら全てのフェーズに対応したトータルソリューションを提供しています。
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Q1. ウェブアクセシビリティ対応は本当に義務なのですか?
- A1. はい。2024年の法改正により、民間事業者においても「合理的配慮の提供」は法的義務となりました。ウェブサイトの環境整備そのものは努力義務ですが、合理的配慮を提供するための土台として不可欠であり、実質的な必須対応と捉える企業が増えています。
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Q2. ウェブアクセシビリティ対応はSEOに効果がありますか?
- A2. 大きな効果があります。Googleの検索エンジン(ロボット)は、視覚障害者が使うスクリーンリーダーと似た仕組みでページを理解します。つまり、ウェブアクセシビリティが高いサイトはGoogleにとっても「読みやすい良質なサイト」と判断され、検索順位やAI概要(AIO)での評価向上につながります。
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Q3. どこから手をつければ良いかわかりません。
- A3. まずは、JIS X 8341-3の「レベルA(必須項目)」のチェックから始めましょう。特に「画像の代替テキスト設定」と「適切な見出しタグの設定」は、比較的修正しやすく、効果も高い項目です。
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Q4. 古いサイトのままだと罰則はありますか?
- A4. Webサイトが対応していないこと自体で、直ちに罰則が科されるわけではありません。しかし、行政からの指導や報告徴収に従わない場合や、悪質な差別と判断された場合には罰則の対象となる可能性があります。何より、企業の社会的信用の失墜というリスクが大きいです。
株式会社コネクティ マーケティングフェロー
大手事業会社におけるマーケティング実務を経てコネクティに参画。エージェンシーの立場から数十社のデジタルマーケティング支援に従事し、Webサイト改善やMA活用などを手掛ける。現在は自社マーケターとして、Web運営、SEO・AIO(AI検索)対策、広告運用までをフルスタックに担当。事業会社と支援会社、双方の実務経験に裏打ちされた「成果に直結するマーケティング戦略」に定評がある。